データを通じたストーリー共有: 数値により人々への影響を共有できるビジュアライゼーション
何も手を加えない客観的なデータと、心動かされる物語とでは、どちらがお好みですか。不公平に聞こえるかもしれませんが、世界を理解するという点に関して言えば、少なくとも人間の脳は明らかにストーリーを支持する傾向があります。
131,824 という数について考えてみてください。これは 1973 年以降に観測された M4.0
以上の地震の件数です。このダッシュボードは、その世界分布を示しています。
ウェブスター英語辞典では、地震を「火山活動や地殻変動による大地の振動」と定義しています。ただし、実際に自分の足元で揺れる地面を想像せずに地震がどのようなものかを考えるのは困難です。概念と結びつけることで、理解が深まります。
2011 年 3 月 11 日金曜日、M9.0 の大地震が日本の東北地方沖で発生し、甚大な被害を及ぼす津波が発生しました。 ニューヨークタイムズの報道によれば、「日本時間午後 2時 46 分に地震が発生した。まず地震による地鳴りと激しい揺れが襲い、立ち並ぶ高層ビルが揺れ動き、家具が転倒し、道路がうねった。次いで、高さ 30 フィート(約 9 メートル)にも及ぶ大波が瞬く間に海岸に押し寄せたかと思うと、自動車を巻き込み、火を噴くビルを押し流しながら、工場地帯、野原、道路を襲った」とあります。
このストーリーの骨子は、午後 2 時 46 分、高さ 30 フィート(約 9 メートル)などの事実やデータですが、全体を 1 つにまとめ上げているのはストーリーの流れです。ストーリーでは、演出が加わることによって、データが記憶に残りやすくなります。「地鳴り」や「揺れ動く」といった言葉で、事実にドラマ性が加わり、感情移入しやすくなります。
データは、何が起こっているかについて事実を伝えますが、ストーリーは、その事実に意味づけを行います。
ストーリーは人間の認知に沿った技術です。たくさんの事実の間につながりと文脈を導入し、記憶に残りやすくする力があります。
ストーリーを形成するものは何でしょうか。人類は誕生以来、ストーリーの共有を続けてきましたが、その構造に目を向けたのは、紀元前 335 年頃、すべてのストーリーは初め、中間、終わりからなるという アリストテレスの主張がはじまりでした。
この主張は、ただの常識のようにも響きますが、当時にしては大きな進歩でした。出来事の最初から最後までをたどってみると、物事がそのように展開する理由がわかってきます。
ストーリーの流れによって因果関係に気づきやすくなるためです。問題の根本原因は、突き止めにくい場合もありますが、人間の脳は出来事どうしの間に結びつきを読み取るようにできています。イベントを適切に構成されたストーリーの中に織り込むと、背後に隠れていた原因を見つけ、見つけた原因について自分が理解したことを他者と共有するのが簡単になります。
たとえば、テキサス州オースティンでは 10 年もの間、教員離職率の高さに悩んできました。過去 10 年間でオースティンの教員離職率が全国平均を下回ったのは 1 年だけであり、2013 年の離職率は 22.3 % にも達しました。
同年 8 月、市内でも特に貧困率が高い東部にある J. E. ピアス中学校に勤めていた元教 員が、長年、胸に秘めてきた話(ストーリー)をSalon.comで公開しました。 その人は次のように記します。「私がピアス中学に着任した 2002 年、なかなか成果の上がらない学校を刷新するために、教員の多くが肝入りで選ばれました」ピアス中学に初めて足を踏み入れた時、「どんな犠牲を払ってでも、この子供たちが階級差別や人種差別を乗り越え、貧困から抜け出せるようにしてやるのだ」と決意しました。
ところが、その後 2 年で筆者は辞職してしまいました。なぜでしょうか。それだけの実力を備え、努力も重ねたにもかかわらず、結局、そのすべてが無駄だと確信するようになったからです。筆者は、自分の体験を通じて、本当に対策を必要としていたのは、教員の質ではなく、貧困だったという結論に至ったのでした。
人間は、だれもが自分を取り巻く世界から常に情報を受け取りながら生きています。その 時自分が置かれた場所で目に入る太陽の光量、周辺の騒音レベルなど、そのすべてが、世界の現状について何らかの情報を伝えるデータポイントなのです。
あらゆる情報はそれぞれ別の時間に受け取られるため、自動的に情報を受け取る瞬間と瞬間の間を何かの情報で埋めることになります。私たち人間の脳は、そのような補完能力を大きく発達させてきました。私たちは、複数のデータポイントをつなぎ合わせ、互いに関連性のある小さいストーリーの連鎖にして、自分の行動を決めます。そのはたらきが強く出過ぎる場合があります。私たちは、実際には存在しないパターンや原因まで、そこにあると感じることがあります。
オースティンの学校システムの指導者たちが、会議でこのデータを見たとすると、それぞれの指導者はこの離職率の高まりを導いた原因について、それぞれ異なるストーリーを脳 裏に抱きながら、会議の場を去ることになります。それぞれが、自分の個人的体験に基づ いて、ストーリーを作り上げるからです。そのようなストーリーについて考え、次に取るべき行動についてばらばらのアイデアを抱きながら、指導者たちは去っていくことになります。
ここで、もし、データが完全なストーリーを伝えていたら、どうなるでしょうか。完全なストーリーが最初から最後まで明確なつながりのなかで伝えられていたら、どうなるでしょうか。そして、会議の終わりに、指導者全員がデータ内に築かれた同じストーリーを確信していたとしたら、どうなるでしょうか。オースティンの学校システムで学ぶ子供たちが、それぞれに明るい未来を手に入れ、その過程にも時間がかからなかったのではないでしょうか。
ジョン・サベージ氏は、教員になることで変化を促したいと考えていましたが、今では、ストーリーを共有することで変化を促しています。ジャーナリストとなったサベージ氏は、読者が事実の間に存在する重要なつながりを理解できるよう、関連性のあるつながりの中で情報を伝えています。もしサベージ氏が、データビジュアライゼーションを活用してこれらのストーリーを共有したら、どうなるでしょうか。
それを見た相手は、何が起こっているかについてデータから事実を知り、ストーリーから因果関係を知ることになります。そうしていった内容をまとめると、大きい変化も起こすことができます。
オースティン学校区のストーリーは、まだ解決されていませんが、1 つ明らかなことがあります。人々の関心を引き出すには、話の筋で人々の心を打つのが一番ということです。そして、アリストテレスの時代を皮切りに、ストーリーの構造について深く探求してきた私たちは、既にストーリーがただ初め、中間、終わりで構成されているのではないことを知っています。良質なストーリーは、中間に「山」があります。
事実の羅列に明白な流れを組み込むことで、相手の心を動かす物語となります。明確な流れによって、事実は構造をなし、意味をなします。ストーリーの中ほどに来る「山」を大きくすればするほど、相手の心を大きく動かし、深く記憶に刻まれることになります。
だからこそ、人類はこれほど長い間、ストーリーを共有してきたのです。ストーリーは、知識を人から人へと伝える極めて優れたツールです。しかも、ポイントを伝える点では、ストーリーには卓抜した力があります。
1854 年、コレラの流行初期にあったロンドンで、ジョン・スノーという医師が疫学を研究していました。スノーは、コレラ伝染のしくみについて、また、伝染を止める方法について、直感的に悟っていましたが、決定権を持つ人々にこのストーリーを伝え、その心を動かすには何か方法が必要でした。そこで、スノーが考案したのが、データを伝える新手法、ストーリーです。スノーは、死者が出るたびに市街地図に 1 つずつ点を打ちました。
その地図を市の指導者たちに見せたところ、指導者たちは、下水システムがない地域の汚染された井戸水が問題であることをすぐに理解しました。最も死者が多いのは、その井戸の周辺だったため、指導者たちは井戸のハンドルを付け替えることを決めました。その後 10 年もたたないうちに、ばい菌に関する理論ができあがりました。
目で見ることによって理解できるビジュアルストーリーを共有するツールは、時代を追って進歩し始めたばかりです。ほんの数百年間で、ジョン・スノーの地図に見られるような手描きのビジュアライゼーションからコンピュータ・グラフィックスまで進歩しました。人類は、強力なストーリーを伝える革新的手法を今も次々と見つけ出しています。Tableau ストーリーポイントは、データを盛り込んだストーリー共有の進化が次に迎えた進化です。
ストーリーポイントは、データビジュアライゼーションを順番に並べ、大量の複雑なデータセットを組み込んだ状態であっても、初め、中間、終わりのあるストーリーを共有できる枠組みとなります。ストーリーポイントを使用すると、データを分析するのと同じツールで、データを盛り込んだストーリーを共有できるうえ、プレゼンテーション・ツールとデータとのつながりを維持することができます。
ストーリーポイントの動作のしくみについて、例を挙げましょう。
1973 年以来、世界中で 131,000 件を超える地震が観測されました。2011 年に日本の東北付近を襲った地震など、近年は、特に被害が大きいものが多数発生しています。世界中の地震数は、本当に増加傾向にあるのでしょうか。
このビジュアルの上部には、一連の説明(上図参照)が表示されており、これを開いて見た 相手へのガイドとなります。本のページをたどるようにして、これらの説明文をクリックしていくと、一連のインタラクティブなビジュアライゼーションが表示されます。
このストーリーは、世界レベルで始まり、最近起きた大規模地震のいくつかに焦点が絞り 込まれます。日本などの地域を見た後、全体で観測される地震について話が進むと、傾向がポップアップ表示されます。地震の観測件数はこれまでになく高まっていますが、増加分のほとんどはマグニチュードの小さい地震です。地震が増加傾向にあるのではなく、地震を観測する手法が改善されたようです。
もちろん、大規模な地震で人々が受ける被害が減るに越したことはありませんが、複雑な データセットを見る際、それが研究室でも、会議室内でも、他のどこであっても、そのデータセットを見たことで、どう行動するかを決定できる必要があります。
このストーリーはデータソースに直接結びついたビジュアライゼーションを使用して構築されています。 世界中で次々と地震が観測されるにつれて、このストーリーに含まれるこのビジュアライゼーションは、新しいデータを加味して更新されます。
ストーリーによって、地面の下で何が起きているかを理解できます。ストーリーによって、一連のイベントを最初から最後までたどり、何がこの結果をもたらしたかを理解できます。
何が起こっているかについてデータから事実を知り、ストーリーから理由を理解できます。こうして原因がわかると、行動を決定できます。
データによるストーリー展開は、画期的技術ですが、実は従来も行われてきたことです。ジョン・スノーのコレラ発生地図からも明らかです。それでは、なぜダッシュボードを使用するだけでは、データによるストーリーを展開できないのでしょうか。
できます。
スノーが、紙、ペン、インクといった汎用的な媒体を使用してデータによるストーリー展開を共有したように、ダッシュボードでも相手の心を打つビジュアルストーリーを展開できます。ところが、ダッシュボードは、通常の用途で使う分には極めてよくできています。
ご覧ください。
データの監視(毎日行う継続的な監視)に関しては、インタラクティブなダッシュボードはすばらしいツールです。データに変化や問題があれば、ダッシュボードで原因を突き止めることもできます。ところが、自分の発見したことを誰かに伝える必要が生じた場合、誰かに何らかの行動を起こすよう説得する必要が生じた場合には、相手に理由を示す必要があります。
データを順番通りに並べることで、相手は文脈を理解しやすくなり、ポイント間の有機的なつながりをくみとりやすくなります。フランシスは、一連のビジュアライゼーションを使用して、ポイントから相手の注意をそらさず、難解だと感じさせずに、最初から最後まで思考プロセスを紹介しています。
ダッシュボードは何が起こっているかについて事実を知らせ、ストーリーが理由を伝えます。
データを受けて判断を下すのが他の人物だった場合には、どうすればよいでしょうか。1854年のジョン・スノーは、ロンドンのコレラ蔓延を水が媒介していると信じるに至りましたが、施政者たちにも同じことを納得してもらう必要がありました。
同様に、最近テキサス州の不振校について著作を発表した元教員のジョン・サベージ氏は、何が問題を引き起こしているかについて強い直感を感じています。1854 年のスノーと同じように、直感に従って多量のデータを検討し、相手を根本から変えるようなストーリーを共有することが、サベージ氏にもできるでしょうか。
サベージ氏のストーリーは、テキサス州オースティン東部全体の教員たちに大きい影響を与えています。地域データを見れば、(豊かな)西部より東部が不振であることは明白なのです。
サベージ氏はオースティンの学校における立ち直りの取り組みについても少し言及してい ます。それは役立ったのでしょうか。サベージ氏がピアス中学を去ってから約 6 年後に、オ ースティンアメリカンステーツマン紙が報告した新調査では、教師の質は東部より西部が高く、オースティン北東部にあるリーガン高校では、「19 % の教師が免許のない科目を教えていた」と主張していました。さらに、報道は教師の実績を高めるための報酬プログラムの説明にも及びました。
一方でサベージ氏は、対処が必要な問題は貧困であり、教師の実績ではないと確信して います。くだんの記事が報道された後、リーガン高校の離職率は高まっただけでした。
3 年後、同紙は、教師の実績を高めるために数百万ドルを投じた結果、問題はほとんど改 善されなかったことを報じました。州のデータを確認すれば、教員の離職率が史上最高で あるとわかるでしょう。
ストーリーが実際の人々に及ぼした心理的影響から実際の理由を示すデータまで、この ストーリーの全体を伝えることができれば、たった 1 人でも、オースティン全体の教員たち、生徒たちの取り組みを変えることができます。
公立学校の教育改善から疾病予防や自然災害の理解まで、データによるストーリー展開には、無限の可能性があります。世界中で大勢の人々が熱心にストーリー共有に励むようになったら、何が起こるでしょうか。数十億の人々が、数値を交えてストーリーを伝えるようになったら、どれほどの影響があるか想像してみてください。
元来、ストーリーは万人のためのものなのです。はるかな太古から、私たちはストーリーで情報を保存し、伝達してきました。印刷機のような、社会のしくみを大きく変える発明の数々を経た今、現実に、情報への広範囲なアクセスが実現する時代が到来しています。今日では、世界中で大勢の人々が現に爆発的な勢いでストーリーを共有しています。
無数の情報は、データによるストーリー展開を通じて、1 つの物語へと結晶します。そうしてできあがった物語をたどると、表面からは読み取れなかった本質が、はるかに具体性を帯びてきます。データには何が起こっているかについて事実を伝える力、ストーリーにはその理由をはっきりと浮かび上がらせる力があります。
もっとも、一番肝心なのは、ストーリーが人々の行動を喚起する点です。加えて、今日の情報過多の世界では、手持ちのあらゆるデータを駆使して、十分な情報を得、どう対応するかを決定できることが極めて重要です。
ジョック・マッキンレー
ジョック・マッキンレーは Tableau のビジュアル分析担当副社長です。スタンフォード大学で関連情報のグラフィックプレゼンテーション自動設計技術の最先端を切り開いた人物でもあります。1986 年にゼロックスパークに入り、ユーザーインターフェイス研究グループと協力して、情報を得やすく画期的なコンピュータグラフィックスアプリケーションを多数開発し、「情報のビジュアライゼーション」という新語を生み出しました。この研究成果を多々紹介した著書『Reading in Information Visualization:Using Vision to Think』を発表しています。マッキンレーはスタンフォード大学でコンピュータサイエンスの博士号を取得しました。
ロバート・コサラロ
バート・コサラは Tableau のビジュアル分析グループに所属する研究員です。2012 年の Tableau 入社前は、ノースカロライナ大学シャーロット校でコンピュータ科学を指導する教授でした。Kosara は並列セットなどのビジュアライゼーション技術を考案し、ビジュアライゼーションにおける知覚、認知の基本を研究しました。最近は、ビジュアライゼーションを生かしたツールによるデータ伝達、ストーリーの共有を中心に研究を進めています。
ミシェル・ウォーレス
ミシェル・ウォーレスは、ミシェル・ウォーレスは Tableau Software で製品マーケティングを担当しており、世界中で優れた考えを広めるリーダーたちがデータでインパクトを生む様子を紹介しています。ウェスタンワシントン大学で主専攻英語、副専攻天文学の学士号を取得しました。Tableau に入社する前は、アメリカの歴史や地域情報を扱う雑誌記者でした。